使えない写真
公的機関から依頼があった原稿を、夕方までかかって仕上げる。
本文が10pそこそこなのに、企画説明資料が200pを超えるという、奇妙なものになったが、まあ、たまにある話ではある。
さすがにこれでは商売にならないので、企画資料作成の費用もギャラとしてお支払いいただくことを交渉。
無事に稟議が通りそうで一段落。
先週末からのヤマを越えて一段落。なじみの喫茶店で、買ったばかりの単行本を読んだりしながら水出しコーヒーで和む。
小一時間ほど過ごしていたら、携帯にカメラマン女史Aからメールが。
一人になりたい時間だったが、ひょっとすると、仕事がらみの話があるかもしれないので、連絡を取って話を聞くことに。
うすうす予想はしていたが、仕事の愚痴を聞く羽目に。あらら。
涙目で現れた彼女を見て、喫茶店のマスターが抜き差しならない関係にある女性だと勘違いしたらしい。僕に対して、妙によそよそしくなったのには笑った。
どうでもいいんだが、泣くなよ。。。。
ご丁寧に隣のテーブルで、金貸しらしきオッサンと愛人らしきおねえさんの間で、「別れる」だの「手切れ金」だのとかいった香ばしいキーワードが混ざった会話が飛び交ってんだから。
マスターやお店の方の視線が痛い痛い。女性の涙は、男を抹殺しかねない威力のある武器ですな。傘を忘れた日に、硫酸の雨に降られたような気分ですわ。とほほ。
すっかり壊れた一人の時間を拾い集めることも難しくなったので、早々にあきらめて、彼女の愚痴を聞くことにした。
聞けば、取材を任されたものの、納品した写真が全部ボツになったらしい。
オーダーしたコーヒーを口にすることもなく、涙ぐむところを見ると、かなりきつく雷を落とされたのだろう。
写真をボツにされた理由を尋ねても、「そんなこともわからないのか」と、叱られる始末だったらしい。
で、僕に写真を見てほしいというのだが、出された写真を見て閉口してしまった。
写真の良し悪しを客観的に評価するのは無理だと言うのが僕の持論だが、なるほどこれなら、ボツになるだろうな。
僕が編集者だったら、やっぱり全部ボツにするだろう。
被写体が見切れているし(一部が映らず、写真からはみ出てしまっている状態)何を伝えようとしている写真なのか、意図が全く伝わってこない。
事実を正確に収めた「記録写真」でもないし、自分の感じたことを写真に閉じ込めた「作品」でもない。
そもそも企画の内容からして、「作品」としての写真を求められる企画でもない。
そもそも、文章に添えられる写真だから、テキストの文字の持つ力を借りなければいけない映像を、自分の感性を封じ込めた「作品」と呼ぶには力不足だろう。
(もちろん世の中にはそういった企画を意図して撮影された写真が多数存在するが、少なくとも渡された写真はそう呼べるものではないように感じた)
そのことを伝えたら、彼女は閉口してしまった。
彼女は、写真を撮り始めた時からクライアントに恵まれて、メディアからも出演依頼が届くようになった幸運の持ち主である。
写真を撮ったり、文章を書いたりする仕事は、資格を必要とするわけではない。クライアントから依頼があれば、決してクオリティが高い作品を生み出せなくても仕事として成立してしまう部分がある。
また、メディアの出演などで話題性を獲得してしまえば、それがまた仕事の依頼を運んでくるという実態があるのも事実だ。
彼女は、自分のカラーや感性を写真の中に追及することや、仕事として写真に携わる姿勢を学ぶ時間が少なかったのだろう。
そういったことを忠告してくれる人がいたと思うのだが、その声を真摯に受け止めていなかったのではないか。
そう伝えたら、彼女は押し黙ってしまった。
長い間、クリエーター業界に身を置いていると、波が引いたように仕事が来なくなることも多い。
そういった時は、焦らず、次の作品世界を作り出せる何かを模索した方がいい。
忙しい毎日の中で生まれる作品にも意味があると思うが、ゆっくりとした時間の中で、経済行為を考えずに、のびのびと何かを見つめる中で生まれる作品は、新しい大きな流れを作ってくれることが多い。
「経済」という、生活には欠かせない行為から遠ざかってしまうのは不安感もあるだろうが、物を創り出す作業と摩擦を起こしやすい問題から距離を置くことができたという見方もできると思う。
ここで一度、執拗に撮りたいものを見つける時間を得てもいいのではないか。
そう伝えたら、彼女の表情がほころんだ。短いながらも厳しい時間の中で実戦を重ねてきただけはある。
話がはずみはじめたら、早速撮りたいテーマを話してくれた。
ヌードが撮ってみたいそうな。ほ、ほう。撮影助手とかやろうかなオイラ。
あ、ちなみに被写体は男性です。
女性モデルさんのヌード撮影の仕事も、幾度か経験してますが、個人的にはあまり関心がありません。
ヌード写真は、ほどよく鍛えられて引き締まった肉体の男性(バレエとかやってる人が理想ですな)のモノクロ写真が、写真作品としては一番美しいと思ってますので。
モデルさんが決まったら、オイラも銀塩カメラ持ち込んで撮らせてもらおうっと。
期せずして企画会議となりましたが、楽しみが一つ増えました。









