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June 2006

June 19, 2006

探偵業法成立の罠

政治関係のことって日記に書かないんだけど
(基本的に僕は物語を書く人で、ジャーナリストじゃないし、ノンポリだからね)
新聞や雑誌のアーカイブを洗ってたら、気になる記事を見つけた。

探偵業法成立
http://seiji.yahoo.co.jp/column/article/detail/20060605-02-0101.html

探偵っていうと、なんかだミステリ小説に出てくるようなイメージがあるけど、
実際のお仕事は非常に地味なものが多い。

どこかのマダムの依頼を受けて、旦那さんの浮気調査をしたり
(友人の探偵曰く、証拠写真を抑えるために、ホテルのロビーや寒空の中、
ひたすら監視を続けることなんてザラなんだとか)

ストーカーを受けてる相手の携帯番号やメールアドレスから住所を割り出したり
(裏側で情報を入手する手段があるんだろうな・個人情報なんて筒抜けですわ)
取引を開始する企業の調査とか、お見合い相手の身辺調査とか。

まあ、詳細は割愛しますが、
名前とは裏腹に人間関係のどろどろした部分を見るわ、
ハードだわ給料安いわで、ほんとに大変らしいですな。

探偵になる人も前歴は様々。やっぱり全体的に
警察関係あがりの方が多いみたいね。

捜査一課(殺人などの凶悪犯専門の捜査を行うスペシャリスト集団)
鑑識課(現場に残されたものから犯人の情報を洗うスペシャリスト)
上がりの方とかがすごく多いらしい。

ところが、中には少数ながら困ったちゃんもいて、
いわゆる暴力団なんかの企業舎弟の探偵屋も存在していたらしい。

要は裏で暴力団や非合法組織とつながっているので、
調査を依頼すると、依頼者や捜査対象者共々、
それをネタに思いっきりゆすられて
法外な報酬を請求されるっていう寸法。

そういう輩の締め出しのために、法律が出来たのかな、
と思ってたら、あらら?

■上記URL記事(ヤフーみんなの政治)より著作権法に基づいて引用

法案は他人の依頼を受けて特定個人の行動を調査する行為を規制する。
探偵業の届けがない者が、例えば誰かを尾行したり無断で写真を撮ったりすると
逮捕される。探偵の話かと思っていたら取材規制か、とメディアが騒ぎ出したのは3月になってからだ。
「9・11以降広がった人権より治安を優先する動きの一環」と民放連は指摘する。
国会で紛糾している共謀罪は、犯罪謀議の疑いがあれば逮捕できる。
探偵業法は情報活動を取り締まる足がかり、というのだ。
 審議の中で「報道機関の依頼による行為」は対象外とする
「除外規定」が盛り込まれた。

しかし「フリーのジャーナリスト、作家など著述業に対する除外規定が明示されていない」と日本雑誌協会は緊急声明で訴えた。

げ、フリーのジャーナリストや作家が、だれかに突撃取材した場合って、タイーホされちゃう可能性があるってこと?

ううーん、この手の仕事ってあんまり請けたことないけど、
単行本とかの仕事だと、アポなしで取材協力をお願いすることって、
結構あるんだよなあ……

 別に悪意のあることを書くわけでもなんでもなくて、
そういう形だからこそ、テーマの中に隠れている真実や
伝えられなかった本当の問題が浮かび上がってくることも
たくさんあるわけで。

しかしまあ、こういう規制をかけてくるのってどうなんだろうね。
マスコミの報道は、社会的影響力が恐ろしく強いから、
報道機関自身が十分配慮する必要があると思う。

だけど、こういった規制をかけられることによって、みんなで考えていかないといけない問題が隠蔽される恐れも出てくる。

なにはともあれ、商売しにくい世の中になりましたなあ。
文筆業も受難の時代ですわ

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June 15, 2006

アメリカの原子力研究機関から

ここのところ、個人サイトに世界各国からのアクセスがやたら増えてる。

まあ、サイトを5年もやってれば別に珍しいことじゃないんだけど、
原子力関係の機関がやたら多いのがちょっと気になるな

http://www.bnl.gov/world/

BNL(Brookhaven National Laboratory)とかね

BNLといえば、ノーベル賞学者を6人もたたきだした
アメリカ指折りのインテリ科学者があつまるエネルギー省の研究機関だ。

他にも、マレーシアやイギリスなんかの政府機関、
国内の教育機関や政府機関からのアクセスがやたら目立つようになった。

国内からのアクセスは分かるんだけど、不思議でしょうがないのは、
アメリカやイギリスなんかのバリバリ英語圏の研究機関が、
ヤフージャパンやグーグルを使って、
日本語のキーワード「松沢直樹」で検索をかけてきていることだ。

こんな泡沫のもの書きのサイトを、
海外の偉い方が覗きにくるとはご苦労なこった。
それとも、あちらの日本人エンジニアやサイエンティストが
見に来てるんだろうか?

ひょっとしたら、原爆をテーマにした児童向け小説を出したからかな。

http://www.dotbook.jp/dotbook/details.php?id=machi_00031

ぼくたちの空とポポの木」は、ネットで知り合ったイラストレーターさんに
挿画を手がけてもらって、脱稿から一年がかりで
電子書籍にすることができた。

作りこんだ甲斐があって、国会図書館のHPや
色々なメディアにも取り上げてもらって、多くの人に渡り始めている。

有難い限りだが、その一つに、今までありがちだった
「原爆の被害や戦争の悲惨さ」だけにスポットを当てるのではなくて、

なぜ戦争をしなければならなかったのか
原爆を投下したアメリカという国は当時何を考えていたのか
ということにもスポットを当てたことがあるのではないだろうか。

もちろん、投下された日本は30万人の死傷者を出す
凄惨な経験をしたわけだけど
(当時の戦時国際法でも赦されない行為として、
戦後アメリカの弁護士が東京裁判で、
日本人被告の弁護に当たった事実もある)

それだけの人の命を奪ってしまう兵器を開発した科学者、
そして投下の実行に加わった兵士たちの苦悩についても、
僕なりの客観的な考察を加えて、後記として加筆した。

また、国家意識を超えて政府の圧力にも負けず、
人としてのあり方をアメリカにメディアを通して訴えた
アメリカ人ライター「ノーマン・カズンズ氏」

そして、実の娘が原爆によって大やけどを負った憎しみを捨て、
カズンズ氏の要請に快く応じ、
アメリカのTV番組「This is your life」に出演して、
原爆の投下を実行した兵士と対談した
広島の谷川牧師の事にも触れた。

誰もお互いを憎んでいたわけでもない。
誰も真に殺し合いをしたかったわけではない。
それなのに、多くの人が命を落とした。
その中には、まだ子供だった人もたくさんいた。

生き残った人は、今も放射線障害に苦しんでいる。
望まなかった殺し合いに加担せざえるを得なくなったことで
今も自分を責め続けている人がいる。

世界の頭脳とも呼べるアメリカのえりすぐりの科学者たちが
原爆をモチーフにした僕の小説を読んでくれて
いるとしたら彼らは、これから何を行うべきか
考えてくれるだろうか?

そして唯一の被曝国として放射能と核兵器の脅威を
自らの体に刻んだニッポンという国は
その痛みを誰かにふりまこうとしてはいないか
自問してくれるだろうか?

決して採算が取れているとは思えないのに
子々孫々の代まで放射線障害を残すリスクがあるのに
エネルギー問題の解決という名のもとに
原発や核燃料施設を日本中に点在させ、
どんどん数を増やしているのはなぜだ?

http://cnic.jp/rokkasho/what/

六ヶ所村の核燃料サイクル施設といい、
なぜ日本の原発や核燃料サイクル施設は、
自衛隊の基地や在日米軍の基地に隣接しているんだ?

危険すぎて使えないプルトニウムを一体何に使うんだ?
プルサーマル計画が頓挫したというのに、
なぜ六ヶ所村の核燃料サイクル施設を稼動させたんだ?

在日米軍の極東拠点基地が、青森の三沢と神奈川の座間に移転した時期と
タイミングぴったりなのは気のせいかな

神奈川の座間基地は、昔、朝鮮戦争が起きた時の国連軍の拠点基地で、
もし朝鮮半島で有事が起きたら、
日本は進んで座間基地を国連軍の前線基地として
差し出さなければいけないという当時の条約がまだ生きていることを、
この国は国民に知らせているのだろうか?

おまけに横須賀に原子力空母を配備することを決めたという。
なんだか、タイミングが良すぎるような気もするな

もし偶然だとしたら、なぜ国民に知らせないままに、
世界最高峰の解像度を誇る偵察衛星を4基も打ち上げてるんだ?

あの解像度なら、地上の軍事施設どころか、
オープンテラスでランチを楽しむ人のメニューまで盗み撮りできるだろう。
まさかいまさら、お天気観測のためなんて言わないよね。

もしそう言い張るのなら、在日米軍より探査能力を誇る
ミサイルレーダーを配備したのはなぜだ?

おまけに世界の海軍が持ち合わせていないイージス艦を
二艘も配備したのはなぜだろう?
事実上、日本の海上自衛隊は、世界第二位の邀撃能力を誇る
アジア最強の軍隊になった。

そろそろ本当のことを話そうよ。

日本はもう、事実上、核を配備していて、
ミサイルを使って攻撃できる能力も持っているし、
航空、海上、陸上の三軍とも、
他国を攻撃できる能力を持ったってことでしょ?

日本中に展開している核燃料サイクル施設は、
核兵器製造のプルトニウム抽出のための布石でしょ。

核兵器開発に必要な実験、たとえば起爆装置が作動するかとか、
プルトニウムの爆縮が無駄なく起きるかとかいった実験は、
スーパーコンピューターを使えば、
実際の実験を行わなくてもきちんとシュミレートできる。

既に配備されているナイキミサイルの弾頭と液体燃料を取り替えれば、
北朝鮮はおろか、アメリカ本土、中国を
十分射程距離に狙える高性能ミサイルになる。

しかも偵察衛星として打ち上げた衛星の情報を使えば、
レーダー網に引っかからずに、
攻撃目標を99.99パーセントの確率で狙える。

小型核として、都市部をピンポイントで爆撃し、
その後上陸作戦を展開することだって十分可能なはずだ。

輸送艦と名前を借りた海上自衛隊の「おおすみ」が、
攻撃戦闘ヘリを搭載できるヘリ空母だということは、
いくら隠しても世界中の常識だよね。

時速80キロで走行しながら、赤外線自動照準を使って、
砲身をロックオンした目標に定めたまま、
1分間に砲弾を4発打てて、
一両でアメリカ軍の戦車を十両撃破できる戦車を搭載できる
上陸用舟艇まで用意してるよね。

一体、この国は、どこと戦争をはじめようとするんだろう?
ここまですごい兵器が自国を守るためとはとても思えないけど

アメリカの後追いをして、ベトナムの時みたいに
泥沼の戦争に加担するつもりかな

イラクと戦争したばっかりに、アメリカが膨大な債務を抱えて
四苦八苦しているのは知ってるでしょ?
ただでさえお金がないのに、国内に核とテロの危機をばらまいてまで、
アメリカに追従する価値があるのかな?

そもそもあの戦争って、大量破壊兵器をイラクが隠し持ってるって
言い張ってたけど、どこからもそんなもの出てこなかったじゃない?

サダムフセインをアメリカは逮捕したけど、
彼は中東の中で唯一女性の国会議員を登用した大統領だよ。
アジアの将軍さまが治めるどこかの国と違って、
アメリカの映画だって上映を認めていたし、
インターネットや国際電話を監視したりはしていなかった。

イスラムの戒律の範囲の中で言論の自由を認めていたし、
義務教育から大学教育まできちんと整備していた。

あの国から豊かさを奪ったのは、
石油利権を守ろうとしたアメリカの一部の富裕層じゃないのか?

アメリカの90パーセントの資産を保有する
1パーセントの人たちのために、
貧しくて大学に通えないからなくなく軍隊に入隊した若者が
イラクに送られたんじゃないのか?

知事時代に薬物で逮捕された履歴があるヤツのために、
一体アメリカの優秀な若者が何人命を落としたんだ?

東京都と同じ数、1千万人もの人口があるバクダッドに
巡航ミサイルや劣化ウラン弾を撃ち込むことが正義なのか?
そのために、一体何人の子供が命を落としたんだ?

一体なんのために、この国は、国民と何百年もかけて築いてきた
美しい環境を犠牲にしてまで、あの国の戦争に加担しようとしているんだろう。

それとも30年前結ばざるを得なかった安保条約を解除するための
外交カードなのかな? 
対等な軍事力を持てば、アメリカと同じテーブルに着けるから?

私自身は、自衛隊の存在と必要性を認めているし、
集団的自衛権や災害救助の際に柔軟に自衛隊が活動できる
憲法9条の改正を含めた法整備を行うべきだと思っている。

だが、それはあくまで「自衛」のために限られるはずだし、
少なくとも国民の合意を得て憲法改正なり、
自衛隊法の改正を行なうべきだと思う。

それがこの国が60年かけて学んできた
民主主義ということではなかったのか?

正論を唱えても、ごまめの歯軋りで終わるのかもしれない。
ここまで固まっていては、水面下で大きくうねりを見せ始めた
動きを止めることは難しいのかもしれない。

それよりも、毎日の生活に必死な時代だもの。

みんな、毎日の生活に必死で
僕とてその例外ではないのだけれど
この世界は今、かつて歩んだ苦悩の道をたどろうと
しているかもしれないことをほんの少しだけ
考えてほしい、と思う。

そして、僕たちが豊かな生活を送っている外側で
アフリカやアジアや南米では
30万人もの子供たちが銃の照準を覗きながら、
毎日を送っていることも、少しでいいから考えてほしい。

一人の純粋な科学者が生み出した発見が
再びこの世界を滅ぼすかもしれない危機にあるこの時代を
変えられる鍵を握っているのは、
やはり優秀なあなたたちだと思うから。

今の僕は、この国のただの市井の人間で
日々の生活で自分を支えるのに精一杯な有様だ。

この世界を変える力なんて到底ないけれど
原爆をテーマにした「ぼくたちの空とポポの木」という作品は、
渾身の力を振り絞って世界に蹴ったパスボールだと思っている。

渾身の力をこめて蹴ったパスボールは、電子書籍になった。
皮肉にもインターネットを自在にかけめぐる電子書籍は、
僕のパスを受けてくれた人たちの思いを載せて、
また色々な人のところへ旅しはじめている。

それから四ヶ月経った今、著名な方や、国内外のメディアや
政府機関に届き始めている。
ありがたいことだと思う。

物語を書いたからには、本にしたい、
たくさんの人に読んでもらいたいと思うのは、
作家の本能だと思う。

だけど、それ以上に望んでいるのは、
この世界を滅ぼすかもしれない脅威が
実はすぐ側にあるということを知ってほしいことなんだよね。

決して昔話ではなくて、
38歳の僕が、まだ青春時代を送っていたころまで、
原爆が残した爪あとは、実際に戦争を経験したことのない
僕の世代にまで、差別や憎しみといった悪意を放っていた。

その生々しい有様を目の当たりにして、
大事な人がたくさんたくさん傷つくのを見て来たから、
やっぱりどうしても見過ごすことはできないんだ。

渾身の力をこめて、僕が蹴ったパスボールは、
この世界の誰の心に届いていくのだろうか。

もうすぐ夏がやってくる。
一人でも多くの人の心に届いて、この物語のような出来事が、
二度と起こらないことを、みんなで願ってほしい、と思う。

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June 14, 2006

諸芸(しょげい)の井戸

ある村に目の不自由な少年がいた。名を諸芸(しょげい)という。

両親に捨てられ、学ぶ機会も与えられたかった諸芸は、
働く道も得られなかった。

なす術もなかった諸芸は、通りに茣蓙を敷いて、物乞いをし、
村人の善意にすがって生活の糧を得ていた。

ある日のことだった。物乞いをしていると、
銀貨を与えてくれた村人が諸芸にこう言い捨てた。

「その金は、今日の水を買う金だったんだ。大事に使えよ」

目の不自由だった諸芸は、村には井戸がなく、
隣の村から水を買っていたことを知らなかったのである。

次の日から、諸芸は、穴を掘り続けた。
井戸を掘ろうと考えたのである。

当然農具などもなかったので、素手で土をかき出し、
穴を掘り続けた。

「お前さん、まさか井戸を掘ろうとしてるのかい? 
やめておきな。腕っこきの連中が何十人の人足を使っても、
しずく一滴、水なんて出やしなかったんだから」

多くの村人はそういって、諸芸が穴を掘るのをやめさせようとした。
中には、あざ笑う者もいた。
だが、諸芸は決してあきらめることなく穴を掘り続けた。

人々はそんな諸芸を暖かく見守ったが、
やがて一年たち二年経つと、諸芸の存在すら忘れてしまった。

村人の差し入れも手にすることができず、
諸芸は飢えと渇きに苦しんだが、
山中に入って果実や芋を手にすることを覚えた。

余った果実は、井戸を掘る合間に、隣村に出て商人に渡して
銀貨に換えてもらうことも覚えた。

皮肉にも、学ぶ機会が得られなかった諸芸は、
井戸を掘ることではじめて生きていく術を学び、
身につけることができたのである。

諸芸が見つけた果実は、山中奥深くにしか生えず、
今まで誰も目にしたことがないものだった。
高貴な甘味と香りのする果実の噂は、街の貴族の耳にも届いた。

その味のとりことなった貴族たちは、こぞって買い求めようとしたため、
ついには、果実一粒に金二百枚という高値がついた。

「坊主、大人(成功者の意)になりやがったな。それだけあれば、
一生食うのに困らねえべよ」

一年が過ぎたころ、諸芸の手元には、
果実を売って得た金が四千枚にもなっていた。

だが、諸芸は、井戸を掘るのをやめなかった。手にした金で、
農具を買い求め、さらに深く井戸を掘った。

果たせるかな。十年経ったある日、
それまで一滴の水も出なかった井戸からこんこんと水があふれだした。

水は全く尽きる様子がなく、井戸からは、
甘味すら感じる澄んだ水がこんこんと溢れるようになった。

村人は、隣村まで水を買い求めに行かずに
すむことになって、喜んだ。

そして口々に今まで誰も成し遂げなかった諸芸の偉業をたたえ、
水を汲むごとに喜んで銀貨を払った。

まだ幼かった諸芸は、十八歳の立派な青年になっていた。

「おお、諸芸がやりおった。村一番の大人様じゃ。
おらの家を用意するから、そこに住んでけろ」

「おらんちの娘を嫁にもらってけろ。自慢じゃねえが、
おらんちの娘は村一番の器量よしだぞ」

村人は、井戸を村人に使わせることで、
銀貨が手に入れられるようになった諸芸に、
家や嫁をあてがい、自分の身内にしようと詰め寄った。

その中には、村の官吏もいた。
諸芸は、官吏を見つけてこう言った。

「ここに井戸から水を汲むたびに、
みなさんが払ってくださった銀貨が四千枚、
そして私が山中で見つけた果実を高貴な方に売って得た金が
八千枚あります。

このお金で、村の子供が学べる学校を作ってください。
そして、畑を耕す農具を全員に買い与えてください。

これだけ水があれば、作物を作って皆が
満足な食事を得られるようになるでしょう?」

「しかし、井戸はお前のものであろう?」

官吏が尋ねると、諸芸は即答した。

「水は、生きていくために、誰もが必要な物。
それなのに、あんな大金を払わなければならないこと自体が
おかしいのです。

 私は、井戸を使う方からお金をいただくつもりはありません。
 そもそも親のいない私が、こうやって今日まで命をつなげたのも、
村の皆様の大恩あってのこと。

 その恩に報いもせずに、労せずして金を得ようとすれば、
天は義に反した私を、必ずや罰することでしょう」

「しかし、この村は土地が痩せてて、
畑を作っても何もできはせんのだよ」

ある村人が、半ば投げやりな態度でそう言った。

「私が井戸を掘りはじめたころ、みなさんは何とおっしゃいましたか? 

 この村に井戸を掘っても水はわかない。そう言ったはずです。

その難業を、目の見えない、学のない私が
たった一人で成し遂げたのです。
これだけの知恵を持つ人があれば、必ずや成し遂げられるはず。

これだけの金があれば、二十年は、
村の人全員が食べるのに困らないでしょう。

お願いでございます。
十年後、私たちの子供が豊かに過ごせるように、
どうか力をお貸しください」

その言葉に打たれた村人は、
諸芸を官吏に登用することを願った。

官吏も、諸芸を官吏に登用すべきだと考えたが、
諸芸はその申し出を断った。

そして金と銀貨を皆の前で官吏に渡し、
街の貴族が好む高貴な果実が山中に自生する場所を伝えると、
いずこともなく姿を消した。

村人は、手分けして諸芸を探したが、
とうとう諸芸を見つけることはできなかった。

村人たちは、恩と義を貫いた諸芸の大志を忘れないように、
井戸を「諸芸の井戸」と名付けた。

そして、諸芸の望んだように、学校を建て、子供たちに学問をさせ、
村人全員に農具を買い与えた。

村人は、諸芸の志を受け継ぐべく、必死に農耕に励んだ。

不作の年が続いたが、人々は豊かになることを信じて、
何度もあきらめずに作物を植えた。

やがて努力は実り、十年もしないうちに、
村は豊富な収穫が得られるようになった。

村人は、余った金を子孫のために大事に蓄え、
隣村に作物を売って生計を立てた。

それから百年経った今、村は、貧しい人が一人もいなくなった。

諸芸が手にした金は、百年のうちの不作の危機の中で無くなってしまった。
今、村に蓄えられた金は、後の村人が蓄えた金である。

今では、諸芸の姿を知る者はいない。

だが、諸芸の残した井戸は、毎日村人の命を潤す水を
与え続けている。

村人は、水を汲むたびに、目にしたこともない、諸芸の姿を思い、
その大志に感謝の心を捧げることを忘れなかった。

そして、生まれてくる子供たちに、真の豊かさを村に導いた諸芸の偉業を
後々まで語り継いだ。

諸芸の大志は、決して亡くなることなく、村人の心の中に永遠に生き続けた。

http://stop-rokkasho.org/index.html

http://cnic.jp/rokkasho/what/

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June 11, 2006

ボンベイ・サファイヤ(アイデアスケッチ)

「このボトルを透かして見るとね、ユキが何を考えてるのか分かるんだ」

貴志は、私の部屋に来ると、なぜかドライジンだけを飲んだ。

長い付き合いの中で、何本かのボトルが空いた。いくつも銘柄が変わった。
シルバートップ、キングスバリー、バーネット。

そのうち、貴志はボンベイサファイヤだけを飲むようになった。
そして、酔うと、ボトル越しに私を眺めてそう言うようになった。

透き通った青いボトルを初めて開けた日は、はっきり覚えている。
だけど、貴志がボトル越しに私を眺めながら、そう言うようになった日は覚えていない。

「お酒の瓶を透かしてみると、人の心が見えるの? なんだか信じられないな」
「酔ってるけど、ほんとだよ。隣に座ってユキも見てごらん。ほら、こうやって明かりにかざすと不思議な青に変わるだろう?」

「私には、ただきれいなだけにしか見えないけど……どうして貴志はそう思うの?」
「俺にもわからない。でも、このボトルを透かしてユキの顔を見ると、俺は、お前が心の底で何を考えているのかはっきり見える」
「じゃあ、私が何思ってるのか当ててみて」

 そう言うと、いつも貴志はボトル越しに私を見て、いたずらっぽく笑うだけだった。
そして必ず、私を抱いた。いつからだろう。貴志がボトルをテーブルに置くと、私は胸が高鳴るようになっていた。

 ゆっくりと肩に回された腕に抱かれ、かすかな汗で上気した貴志の香りに包まれる。
ドライジンで渇いた舌が差し込まれると、頭の芯が痺れるのを覚えた。熱を帯びた胸元と下腹部に触れる指先から必死で逃げた。

でも、その抵抗も、強く繊細に触れる貴志の指先の前では、いつもすぐに溶け落ちた。
 耳朶(じだ)を吐息で包まれると、かすかにあらがう気持ちも飛んだ。荒々しく抱かれることもあったし、貴志を受け入れるのに苦痛を感じることもあった。
だけど、拒む気持ちは少しも起きなかったし、このまま自分を壊してほしいとすら願うこともあった。

 その嵐のような時間も、今はもうない。貴志は私の前から姿を消した。
とうとう、ボトル越しに何を見ていたのか、私には教えてくれなかった。

抑揚なく繰り返していく毎日は穏やかだけれど、日に日に渇いていく気持ちだけが
高まる。

決して穏やかではなかったけど、貴志がいたあの時間が苦しいほど恋しくなる夜もある。今夜も、貴志と過ごした記憶が目を覚まして、眠れなくなってしまった。

 ベットから身体を起こして、リビングの明かりをつける。怖かったけど、勇気を出して、ずっと触れられなかったボンベイサファイヤのボトルを手に取ってみた。
そっと明かりにかざしてみると、あの日、二人で並んで眺めた不思議な青色の世界が広がっていた。

 ほこりをはらうと、ボトルのスクリューを開けて、そのまま唇を押し当てる。
スパイシーな香りが貴志の汗と重なるのを感じた。みるみる、胸元と下腹部が熱を帯びていく。抗えないほど気持ちが高まって、つい、自分で指を伸ばそうとしてしまったけど、結局手を止めてしまった。

貴志の強く繊細な指先ほど満たしてくれないことは、自分が一番よく知っているからだ。

もう一口だけボンベイサファイヤを口にする。決して満たされないことを知りながら、高まっていく気持ちにいたたまれなくなって、苛立ちをぶつけるように、キッチンのシンクにボトルを叩きつけてしまった。

「いたっ……」

衝動的な行動に自分で驚いて、飛び散ったボトルの破片に手を伸ばした時だった。痛みを感じて思わず声を上げてしまった。傷ついた指先に血があふれている。

かすかだけど、ゆっくりと流れる血を、私は呆然と眺めていた。小さな筋を作った血が手首に届いたのに気づいて、あわてて指先を口に含む。
ドライジンで痺れた舌の上に、苦い血の味が広がる。

「この味……なのかな」

ある思いが胸に広がった。

貴志は、この味を感じていたのかもしれない。

貴志を失うことを恐れて、感情をぶつけなかった私の心を苦く感じていたのではないだろうか。貴志には、ボトル越しに移る私の顔は、心を開かない遠くを見る顔に見えていたのかもしれない。

本当のことを知ることはできないし、もう、あの時間に戻ることはできない。

頬に涙が流れるのを感じながら、私は、飛び散ったボンベイサファイヤのボトルを片付けた。

涙が一粒シンクに落ちて、かすかな音を立てた。
でも、拭う気にはなれなかった。貴志の汗とボンベイサファイヤの言いようのない香りを忘れるまで、今夜はこのまま涙を流そう、と思った。

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